アオウミガメ保全活動報告2025(伊藤忠商事(株)様ご支援)

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エバーラスティング・ネイチャーでは、小笠原海洋センターで行うアオウミガメの保全事業に対して、伊藤忠商事株式会社(本社:東京都港区北青山2丁目5番1号)様より2017年より継続してご支援を受けております。
今回は2025年の結果についてご報告します。

産卵モニタリング調査およびふ化後調査の結果概要(2025年)

  • 調査概要

小笠原諸島で行うアオウミガメのモニタリング調査は、
・産卵巣の数を数える「産卵調査」
・どれだけの稚ガメがふ化したかを調べる「ふ化後調査」
の2種類があります。

産卵状況の把握はもちろん、産卵する砂浜の環境を継続的に見守ることも、アオウミガメの保全には欠かせません。
2025年の調査は4月20日~11月17日に実施し、調査回数は父島列島170回、母島列島16回、聟島列島8回でした(各海岸での調査を1回としてカウント)。
調査に参加した延べ人数は、父島771人、母島70人、聟島48人でした
 

  • 調査結果(2025年)

○父島列島
昨年に続き22海岸を定期的に巡視し、産卵状況を確認しました父島列島では約1,600巣(前年比92%)の産卵が確認されました。大村海岸を除いた海岸の推定初産卵日は4月19日、推定の最終産卵日は8月26日でした。昨年の初産卵日は4月7日だったため、今年は産卵の始まりが遅い印象でした。5月中旬になっても産卵が少なく「今年は少ないのかな?」と心配したほどです。5月後半からようやく産卵が増え、6月中旬にピークを迎えました。
結果として、シーズン全体の産卵巣数は昨年に近い約1,600巣となり、例年並みの産卵が見られました。

最も多く産卵が見られたのは、初寝浦海岸と北初寝海岸で、いずれも約200巣が確認されました。この2海岸は毎年産卵が多い場所ですが、今年は扇浦海岸でも同程度の産卵がありました。集落に近い扇浦でこれほど多く産卵が確認された背景には、島民の方々や観光客のみなさまが、ウミガメが安心して産卵できる環境づくりに取り組んでくださっている、ということがあるのだと思います。

今年は約1,000巣のふ化率調査を行いました。平均ふ化率は 約39%で、海へ戻った稚ガメはおよそ63,000頭と推定されます。昨年は約70,000頭でしたが、近年の40,000~50,000頭前後と比べると、多くの子ガメたちが海へ旅立った年となりました。

○母島列島
7海岸で調査を行い、約450巣
の産卵を確認しました。前年比92%で、父島と同様に昨年よりやや少ない結果でした。中でも平島が約200巣と最も多く、母島列島の主要な産卵地となっています。ただし、平島では実施したふ化率調査の約3分の1の巣がスナガニにより全滅しており、産卵巣数ほど稚ガメが海にたどり着いていないと考えられます。

○聟島列島
8海岸を調査した結果、2025年は約60巣
の産卵を確認しました(昨年は約43巣)。ウミガメは生まれた浜に戻って産卵するとされますが、数十キロ離れると「自分の生まれた浜」と認識しないようです。父島列島と聟島列島は約50km離れているため、両方の列島を同じメスが産卵にやってくるかどうかは、まだ明らかになっていません。もしかすると、父島で産卵する個体は聟島では産卵しないのかもしれませんね。

大村海岸の光害対策
赤ちゃんがガメは明るい方向に向かう習性があるため、街の灯が近い海岸では産まれた赤ちゃんガメが街の灯に引き寄せられて海へ帰れなくなることがあります。小笠原の大村海岸で発生する光害からウミガメを守るための活動を実施しました。

光害対策と結果(2025年)
昨年は過去2番目に多い260巣の産卵が確認されましたが、2025年は100巣ほど少ない167巣となりました。
ご支援開始時の2017年より安定して、大村海岸にはウミガメが産卵に来ていることが分かります。大村海岸は光害という課題がありながらも、父島列島内でも産卵巣数が比較的多く、重要な産卵場所であることが改めて経年的な調査により明らかとなりました。

大村海岸では産卵調査を実施するとともに、母ガメが産卵しやすい環境を守るため、夜間パトロールをのべ67日実施し、海岸で965名へ適切なウミガメ観察方法をお伝えすることができました。
光害対策のため、ふ化直前に海洋センターのふ化場へと移動させた産卵巣の数は123巣でした。その後、ふ化場で10,407匹の赤ちゃんが誕生し、光害の無い真っ暗な砂浜から放流しました。
 
また、産まれてくる赤ちゃんガメにより負担の少ない方法として、卵を移動させない方法での保護も実施しました(下写真)。
2025年は18巣に対して実施し、547匹の赤ちゃんガメを安全な方法で海にかえすことができました。ネットを産卵巣の上部を囲うように設置し、地上へ這いあがった赤ちゃんガメをトラップし、回収したのちに暗い砂浜で放流します。

ふ化日を予想し、スムーズな回収ができるよう準備をしますが、赤ちゃんガメ達はよく予想日をうらぎって這い出てくるため、効率の良く回収作業ができないこともしばしばありました。
また、産卵を見逃してしまった産卵巣から出てきた赤ちゃんガメ達がお祭りの灯に集まってきてしまったことなどもありましたが、大きな事故もなく、多くの方々のご協力により2025年も無事に保全策を実施できました。

ウミガメの生態に則した保全策を前提に、人とウミガメが互いにより良い距離感を保ちつつ、共存できる環境をつくるための活動として今後とも力を入れていきたいと思います。

9年間のご支援によるモニタリング結果

※聟島列島は2022年調査実施なし。

2017年から続くご支援のおかげで、父島・母島・聟島の3列島における2017~2025年の産卵状況を継続して記録することができました。
2021年以降、産卵数は1,500巣前後で推移しており、一見すると安定しているように見えます。しかし、乱獲が始まった明治初期の記録と比べると、現在の産卵数は依然として低い水準にとどまっています。

2024年12月に実施されたIUCN(国際自然保護連合)のレッドリスト評価(2025年10月公開)により、アオウミガメは絶滅危惧種から低懸念へダウンリストされました。これは、世界各地で長年にわたり積み重ねられてきた保護活動が実を結び、個体数が回復傾向にあることを示す、非常に重要で前向きな評価です!
一方で、この評価は「保全活動が今後も継続されること」を前提としたものでもあります。混獲の問題やエサ場となる藻場の減少など、ウミガメにとっての脅威は現在も続いています。また小笠原では人間活動の影響として、上陸したウミガメや孵化した仔ガメの行動に影響を与える光害の問題も、依然として解決されていません。
過去には数十巣まで落ち込んだ時期があったことを踏まえると、現在の安定は決して自然に得られたものではありません。今後も個体数の変化を注意深く見守り、必要な対策を講じ続けることが極めて重要です。
また、海洋環境や生態系が変化し続ける中で、ウミガメのような長寿命で広範囲を移動する生き物を長期的に観察し続けることは、環境の変化を知るための貴重な指標にもなります。

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