絶滅危惧種アオウミガメ保全活動報告2020(伊藤忠商事(株)様ご支援)

Pocket

エバーラスティング・ネイチャーでは、小笠原海洋センターで行うアオウミガメの保全事業に対して、伊藤忠商事株式会社(本社:東京都港区北青山2丁目5番1号)様より2017年より継続してご支援を受けております。過去2年にわたり開催された社員様およびそのご家族様参加による「アオウミガメ保全ツアー」ですが、今年度は新型コロナの影響により実施することができませんでした。着工が遅れていたボランティア参加者の宿泊スペース(前年度ご支援)は今年度5月に無事完成し、ボランティア参加者による利用が開始されました。今年度は新たに「大村海岸の光害対策(脱出子ガメの街灯への誘因防止策の検討)」に関してもご支援いただきました。支援案件のベースとなっているアオウミガメ産卵巣数モニタリング調査とふ化後調査の結果とあわせて、概要をご報告いたします。

生物多様性の中でのアオウミガメの存在意義については、2017年の伊藤忠商事様支援事業をご覧ください。

産卵モニタリング調査およびふ化後調査の結果概要

調査概要

父島列島の約30海岸、母島列島の約10海岸、聟島列島の約10海岸を対象に定期的に海岸踏査し、各産卵状況をモニタリング調査しました。小笠原諸島父島におけるアオウミガメの2020年の初産卵は、2019年より約1か月ほど早い3月中旬に確認されました。産卵開始が早かったためか、最終産卵も2019年よりも約2か月ほど早い8月18日前後となりました。ただし、2017年の最終産卵が8月20日前後でしたので、今年はそれとほぼ同じ時期となります。産卵期間中の約5か月間、合計約50海岸で産卵状況調査が実施され、その後、卵のふ化を待って、産卵調査時の位置情報をもとに再び海岸に赴き、ふ化状況を確認するために卵の掘り出し調査を実施しました。今年は調査ボートのエンジントラブルが多発し、予定通りに調査が実施できないことが多々ありました。それでも、ふ化した順に掘り出し調査を進め、11月初旬には、ほぼすべての調査が完了しました(一部、母島の調査は12月に実施予定)。延べ調査回数は172回となり、それに費やした調査人員は延べ692人となりました。

産卵調査時の記録をもとに産卵巣の位置を出し、掘り返してふ化率調査を行う

調査結果

2020年は、父島列島で約1,700巣(前年比113%)、母島列島で約400巣(前年比67%)、聟島列島で約28巣(前年比70%)のアオウミガメ産卵巣が確認できました。母島列島と聟島列島で十分な調査を実施できなかったことも起因し、前年比では大きく減少しておりますが、父島列島では2016年から3年継続していた減少がいったんストップしました。今後も産卵巣数推移をモニタリングしていくことが非常に重要になります。ふ化後のふ化率調査では父島で合計1,200巣に対して実施したところ、父島列島では約55,000頭の子ガメが海に帰っていったと推測されました(母島列島および聟島列島では、ふ化率データが不十分なため算出不可)。理論的な脱出率(卵数に占める脱出子ガメの割合)は父島列島で約36%となります。

子ガメがふ化した後の卵(ふ化殻)。きちんとふ化した後のふ化殻はキレイで、触っても気持ちがいい(手前の黒っぽい卵はふ化しなかった卵)。

大村海岸の光害対策

ウミガメ産卵海岸としての問題点

父島の中でもっとも市街地に近い大村海岸では年間約200巣のアオウミガメ産卵巣が確認されており、父島の中でも主要な産卵海岸の1つになっています。ふ化したばかりの子ガメは明るいほうに向かう生態的特性(正の走光性)をもつため、この海岸でふ化し脱出した子ガメが街の明るさに誘引され、海に帰れないといった現象(迷走)が以前より生じていました。海に帰れなかった子ガメは乾燥に耐えられず死亡したり、道路で車にひかれて死亡したりすることもあります。当団体ではこれに対応するため、この海岸に産卵されたすべての卵を産卵後40日以降(ウミガメは卵が発生している時の(砂の)温度で雌雄が決まるため、その期間が経過した後)に小笠原海洋センター内のふ化場に移動しふ化させています。

アオウミガメの子ガメ。大きな目が特徴的ですが、嗅覚も発達しているようなことが言われています。

卵を移動させるリスク

産卵されたウミガメの卵を移動させてふ化させることには以下のようなリスクがともないます。
1.転卵(卵が転がったりして、卵の上下が入れ替わってしまうこと)による卵の死亡
2.温度性決定(卵が発生しているある時期の(砂の)温度で雌雄が決まる)により子ガメの性比の偏り・かく乱
3.ウミガメは卵の発生中も磁場の感受性が高いと考えられ、卵の移動により歪んだ磁場にさらされ、正常な生態磁石の機能を失う(回遊や母浜回帰に影響)

1ではそもそも子ガメはふ化しませんし、2や3ではオスもしくはメスの個体数が一方だけ極端に少なくなったり正規の回遊ができなかったりすると繁殖行動に影響し、最終的には個体数の減少につながることが懸念されます。当団体では1と2に対してはリスクを軽減する手法を講じています。3はウミガメ保全していく上で検討すべき最重要事項として当団体が従来より注目しており、近年、関連する学説も発表され始めています。しかしながら、生態磁石の機能を意識しないで保全に取り組む組織や団体が世界でも非常に多いのが現状です。当団体では自らその実証(研究)にも取り組むと同時に、卵の移動は問題解決のための一時的な対処法と位置づけています。小笠原では今後も増加すると推測されるアオウミガメ産卵数を考慮し、光害への様々な対応策を検討しております。

ウミガメ卵の移動。ふ化直前の運搬であるので、転卵や雌雄決定のリスクは軽減されているが・・・

新規対応策の試行結果

脱出した子ガメが街の明るいほうに向かわないようにするため、脱出前(産卵後50-55日後)の産卵巣に30㎝×30㎝のトリカルネットを被せて脱出した子ガメを保護し、人工灯のない海岸から放流する手法を試験しました。大村海岸で検証がしやすいエリアを選択し、産卵期間中26巣に対してトリカルネットを設置しました。その結果、1,656頭の脱出子ガメを保護し、別の海岸から放流することができました。子ガメの迷走通報は9件確認されましたが、産卵確認ができなかったために未対応(トリカルネット設置や卵の移動を実施しなかった)であった産卵巣数とほぼ一致することから、それらの産卵巣から迷走した子ガメたちと推測されます。仮にトリカルネット設置の26巣に対して何も対応しなかったとすれば、通報件数はもっと多かったと推測され、26巣の全子ガメが迷走した可能性も考えられます。脱出した子ガメがトリカルネット越しにネズミに襲われたり、子供のいたずらでトリカルネットが外され、脱出した子ガメが迷走するといった事例も発生いたしましたが、トリカルネットの改良や住民への周知で解決可能と考えられます。総合的には効果的な手法と判断され、引き続き試験を継続して本格的な実施に向けて進めていきたい考えです。

産卵巣に設置したトリカルネット(立体型に改良後)。ネットの中で前夜に脱出した子ガメが保護されている。

関連記事

  1. 絶滅危惧種アオウミガメ保全活動報告2019(伊藤忠商事(株)様ご…
  2. 絶滅危惧種アオウミガメ保全活動報告
    (伊藤忠商事(株)様ご…
  3. アオウミガメ保全ツアー~伊藤忠商事㈱様ご支援~
  4. 伊藤忠商事「夏休み環境教室」でウミガメ講演
  5. 絶滅危惧種アオウミガメ保全活動報告2018 (伊藤忠商事(株)様…
PAGE TOP