絶滅危惧種アオウミガメ保全活動報告2023(伊藤忠商事(株)様ご支援)

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エバーラスティング・ネイチャーでは、小笠原海洋センターで行うアオウミガメの保全事業に対して、伊藤忠商事株式会社(本社:東京都港区北青山2丁目5番1号)様より2017年より継続してご支援を受けてきました。
2024年も1月に入り、ふ化状況の調査やデータまとめが完了しましたので、2023年度の報告をしつつ2017年からのご支援で得られた成果を取りまとめたいと思います。

産卵モニタリング調査およびふ化後調査の結果概要(2023年)

調査概要

目的:本調査では、産卵およびふ化の現状を記録します。アオウミガメ個体数の増減、将来的な個体数予測や海岸環境の把握などの基礎データを得る目的があります。長期的な基礎データは、これまでの取り組みを評価・検証したり今後の指針を得るために野生生物保全にとって必須かつ基盤となる情報です。

努力量:2023年のモニタリング調査は4月19日~12月5日まで行いました。調査回数は父島159回、母島6回、聟島2回でした。調査に従事した人員数は父島762人、母島36人でした。

  

調査結果(2023年)

小笠原ではコロナ禍が収束し、昨年のようにモニタリング調査の中止を余儀なくされることはなく遂行できました。また、昨年は予算の関係で断念した聟島調査も2年ぶりに実施できました。

父島:小笠原諸島・父島列島の22海岸をを対象に定期的に海岸踏査し、各産卵状況をモニタリング調査しました。父島列島で約1,400巣(前年比約81%)のアオウミガメ産卵巣が確認できました。今年の初産卵は4月26日と、比較的遅めのスタートとなり、例年通り6月に産卵ピークを向かえました。産卵終了は、遅めの始まりと連動したのか最後に確認された産卵日は9月8日と遅めでした。大部分の海岸で産卵が昨年の8割程度に減少する中で、父島最大産卵規模を誇る北初寝および初寝の2海岸では昨年規模の多くの産卵が見られました。一方で、産卵が比較的多く、ふ化率も良い南島での産卵が今年は少なかったです。
ふ化後調査は、761巣に対し実施しました(全体の56%)。その結果、父島列島で約48,000頭の子ガメが海に帰っていったと推測されました。脱出率(卵数に占める脱出子ガメの割合)は約35%で、昨年とほぼ同じ数値となりました。

 

母島: 母島列島の7海岸を対象に調査を実施しました。母島列島で約280巣(前年比約83%)のアオウミガメ産卵巣が確認できました。 ふ化後調査も実施しましたが、データが不十分なためふ化率の算出は不可能でした。今年も海況悪化により、調査可能期間が限られていたため、孵化後調査より重要な産卵巣数の算出に注力しました。

 

聟島:聟島列島の8海岸を対象に調査を実施しました。小笠原の中で最北に位置する聟島列島全体で約30巣の産卵を確認しました。過去の数と比較し、大きな変動が見られていないことを確認できました。聟島列島への訪問は年1-2回ほどと調査頻度が少ないフィールドです。前回調査から丸2年たち、かつ列島内は全て無人島であるため島民の出入りも少ない場所です。安全を期してモニタリングを遂行していくためにも数年に1度は訪問して、フィールドの知見を職員が蓄積していくことが今後の調査のために求められています。

 

大村海岸の光害対策

父島の主要産卵海岸の1つである大村海岸は島内の繁華街に最も隣接する海岸で、人工灯の明かりが漏れるため、明るい方向に向かう習性がある赤ちゃんウミガメや産卵を終えた母ガメが町に出てしまい海へ帰れなくなってしまう問題が発生しています。これを光害(こうがい)と言います。
ウミガメの産卵・ふ化時期に合わせて灯りを抑えたり、母ガメが街へ行かないように柵を設置する対策は既に取られています。しかし下記の光害対策も実施しなければ、全ての赤ちゃんウミガメは公衆トイレ周辺の灯りや街へ向かって迷走をして体力を消耗してしまい、また側溝に落ちたり交通事故にあったります。また、母ガメも産卵の後に海に帰れず街を迷走する姿が観察されています。

光害対策と結果(2023年)

光害対策として実施した内容は、①ウミガメにやさしい海岸利用方法についての周知(広報と夜間パトロール) ②ふ化直前の卵の移動 ③トリカルネットを用いた自然ふ化での試み の3点です。

2023年の結果
①公園協会や村役場などの関係機関に協力依頼をし、村民だより等での周知をおこないました。産卵時の観察の仕方について新たに卓上POPを作成し、島内の飲食店や宿泊業者に設置をご協力いただきました。産卵が多い時季に61日の夜間パトロールを実施し、産卵見学者595人に対し周知をおこないました。

②上記夜間パトロールの他に日中調査も46日間実施し、産卵場所の特定をしました。今年は120巣ほどの産卵が確認され、昨年よりだいぶ少ない結果でした。産卵日より起算してふ化直前の卵をふ化場へ移動させ(約100巣)、地上へ脱出した赤ちゃんはすぐに暗い海から帰す作業を実施しました。

③弊団体では、卵の移植による生態への影響を軽減するために後期胚まで成長したタイミングで移動を実施しています。それでもなお生態へ負の影響を与えている可能性も否定できないため、近年は自然脱出をさせてから光害のない海岸で放流する取り組みを実施しています(詳しい手法は2021年報告をご覧ください)。今年は10巣に対して実施し、786頭が海へ帰りました。

 

7年間のご支援による成果(2017-2023年)

小笠原諸島アオウミガメ個体群の繁殖状況の把握

ウミガメ類は、遺伝的に分類された個体群(Manegement Unit)ごとでの保全が求められています。アオウミガメは熱帯から亜熱帯を好んで産卵する種で、小笠原近海では南西諸島や東南アジア、ハワイ、オセアニア地域などで産卵します。その中でも北限に位置する小笠原の個体群は遺伝的に独立した個体群であるため、個体群単位での状況把握が必要です。今までウミガメ遺伝子研究の主流はミトコンドリアDNAによる研究でしたが、核遺伝子の研究により小笠原個体群が持つ遺伝子の独自性も明確になりました。今後はさらに詳細な海岸への固執性や過去の個体群動態が明らかになるはずで、そのためにも距離が離れた列島ごとの繁殖状況把握も重要になります。

繁殖個体群の生息数:2017年からの7年間のご支援により、小笠原諸島の3諸島内における2017年~2023年の繁殖状況が下記の通り把握できました。
・聟島列島   約35巣  (28-50)≒ 雌ガメ約6頭/年※
・父島列島 約1,600巣(1200-2000)≒ 雌ガメ約300頭/年※
・母島列島 約400巣  (280-600)≒ 雌ガメ約75頭/年※
(※1シーズンの産卵回数4.5回で算出)
産卵回帰年を仮に4年に1度産卵とすると、小笠原個体群の成熟雌は約1,525頭いると推測されます。

小笠原では戦前の乱獲に終止符が打たれ、1980年頃から徐々に増加傾向が見られておりましたが、2017年以降は著しい増減は見られておらず、安定している状況です。

将来の生息数予測:7年間の調査結果で得られた脱出率(卵数に占める脱出子ガメの割合)を用いて、毎年の稚ガメ生産数を推定しました。脱出率として父島は平均32%(2017-2023年)、母島は35%(2017年結果)、聟島30%(2017年結果)を用い、ふ化稚ガメの生存率を仮に0.25%としました。
以下、各列島の年間推定稚ガメ生産数と(成熟まで生存する)年間推定生存頭数です。
・聟島列島   約1,050頭 ⇒    2頭
・父島列島 約51,200頭 ⇒ 128頭
・母島列島 約14,000頭 ⇒   35頭

 

小笠原個体群の成熟年齢は約40年と推定されており、例えば2017年の活動成果で生まれたカメが繁殖に参加するのは2057年になります。

今後の脅威:上記はあくまで現状での理論的な推定生存頭数です。生まれた子ガメたちは日本近海を餌場として過ごすことが知られています(東北~東南アジア域まで生息するが、北に行くほど小笠原個体群の密度が高い)。近年日本各地で小型アオウミガメの混獲や死亡漂着が増えていると報告があります。この増加は一つに小笠原や南西諸島での産卵の増加(=稚ガメ生産数の増加)が原因として挙げられますが、一方で混獲や沿岸での人間活動が個体群へ与える影響度合いは不明です。例えば関東では2021年に94頭、2022年に64頭のアオウミガメ死亡漂着や混獲が確認されましたが、通報されないケースもありますので全体数は不明です。また、近年アオウミガメが餌とする海藻や海草の藻場が消失している環境悪化や、藻場や漁場を荒らす害獣としてアオウミガメが扱われることがあること、また小笠原では食用としての利用もされています。ウミガメが利用してきた海域における人間活動の変化だけでなく、気候変動による影響で海洋環境や生態バランスが変動する中で、捕食者と被食者の個体数バランスがどのように変動していくのかも解明される必要があります。この7年間で得られたデータを活用しながら今後も引き続きのモニタリングにて基本データを記録しつつ、生態解明や情報収集が求められています。

大村海岸での光害対策

2020年から取り組んだ光害対策の実施により、多くの稚ガメを光害による死亡から回避させ、海に帰すことができました。4年間の活動成果として大きかったのは、自然脱出による保護手法を新たに取り組み、その手法を確立したことです。しかし自然脱出させられる産卵巣の条件には制限があり、この手法も限界があることがわかりました。人とウミガメがより良い距離感で共存できる形を模索していくことが今後の課題です。そのためにもウミガメの生態を理解することが重要です。
本事業では、ウミガメにやさしい海岸利用に関する周知活動でも大きな活動成果を残せました。毎年500人近い観光客の方に直接周知をし、島内での周知や関係構築にも努めました。現在小笠原ではウミガメ産卵時の観察の仕方において強制力があるルールはありませんが、ほとんどの方が必要のない灯りを消して砂浜に来て下さり、むやみにウミガメに近づかないなどマナーよくウミガメにやさしい観察を心掛けてくださっている印象があります。

未来のための人材育成

ELNAでは海洋生物および自然環境の調査研究、保全、資源管理に関する人材育成にも力を入れています。人材育成事業に直接ご支援を頂いたわけではありませんが、毎年、島内外から多くの方々に本事業に携わっていただき、ボランティアや調査・研究に携わった経験が、未来の自然環境の保全や研究に携わる人員の育成にもつながっています。2017年~2023年の7年間で携わって頂いた人員数は、延べ6,369人となりました(重複あり)。また、伊藤忠商事様にはボランティアや研究者が滞在するための宿泊施設としてコンテナハウスも寄贈いただきました。

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