小さな出来事、しかし大きな飛躍

Marine Turtle Newsletter (MTN)という、ウミガメの国際的なニュースレターがある。第1号は1976年8月に発行された。僕がこれに初めて投稿したのは、1985年3月の第33号である。小笠原に行ってから10年の月日が流れていた。当時は、ウミガメの性比は地温によって決められるということがやっと世界的に認識され始め、様々な地域で性決定の実験が行われ始めた頃である。しかし、小笠原では、そんなアホなことがあってたまるか、というまだそんな時代であった。その頃は、まだ小笠原海洋センターもできてなく、僕は夏になるとひたすらカメのお産婆さんを続けており、自分の将来の展望も方向性も何もない時代であった。

そんな時、なぜか小笠原のことを世界に知ってもらわなくてはという気持ちが起き、このニュースレターに投稿したのである。今とは違って、タイプライターで文章を打ち、国際郵便で投稿したのである。僕の英語はめちゃくちゃで、投稿後、国際郵便のやり取りが何回も行われた。”number of eggs”を”numbers of eggs”と書いたりしたものだ。MTNの編集者もよく耐えたものだ。内容的には1982年からの3年間、生簀に入れた親亀から採卵した人工ふ化放流の結果だけである。今振り返ってみると実につまらない記事だと思う。

https://www.seaturtle.org/mtn/archives/mtn33/mtn33p2.shtml

でも、これによって小笠原でアオウミガメの調査や保全をやっていることを、世界の人が知ることとなったのである。世界にとっても僕にとっても、この投稿は本当に小さな出来事でしかないが、投稿したことにより僕の中では、世界の中の小笠原のアオウミガメという観念が育ってきた。当時の自分では気づいていなかったけれど、今から思うと僕が大きく羽ばたいた瞬間であったと思う。