僕たちがやるべきこと(No.30)

今年は、日本のあちこちでカメの上陸が増えたという話を聞く。ニュースや新聞でも、保護の成果として謳っている。それはそれで喜ばしいことかもしれないけど、本当にそれでよいのだろうか。どうもウミガメの資源というのは、数十年というかなり長期的に増減変動を繰り返し、それが全体的に減少傾向にあるのか、増加傾向にあるのかが重要だということがわかってきている。日本の保護活動は徳島県日和佐町で1950年代に、資源管理の観点からは小笠原諸島で1910年を嚆矢とする。ほとんどのウミガメ保護団体の活動は1990年代に入ってから始められている。また、これらの活動は市町村単位で行われているので、なかなか全体の把握が困難である。実際問題として10年や20年ではウミガメが増えているのか、減少しているのか分からないのである。ただ、言えるのは絶滅に瀕しているかどうか、そこまで資源が減少すれば、それは割に簡単に把握できる。上陸数が極端に少なくなるからである。その少ない中での変動に一喜一憂するべきではない。

ある地域では産卵数は昨年の倍で、産卵巣が昨年の5巣から10巣になったという。もし、これがアオウミガメだとすれば、1-2頭が2-3頭になっただけの話である。決して増えたとは言えない。これは、20頭が30頭になっても同じである。産卵巣数で言えば、80巣が120巣になっただけである。例えば、これが1頭が平均3年おきに産卵するとすれば、成熟した全メス亀数は、その地域や国では100頭も生息していないということなのである。絶滅に瀕している状況なのである。

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僕はいつも不思議に思うけど、マスコミも保護団体も地域行政もどうしてこのような観点からものを見ようとしないのだろうか。また、ウミガメが減少する要因は、保護活動の範囲外で起きている場合が大きい。さらに、海岸の卵のほとんどを移植しているところで、ウミガメが資源として増加しているところはない。ここで言う移植とは、単純移植のことで、どんな理由だか知らないけれど、海岸から卵をふ化場に持ってきてふ化させ、稚ガメを放流することを指す。つまり、卵の移植はウミガメの絶滅に拍車をかけていることを認識すべきなのである。フロリダのアオウミガメが増加したのは、年間1万頭にも及ぶ30年間にわたるヘッドスターティング・プログラムだとみなされている。ケンプヒメウミガメが増加したのは、全米のエビトロール船にウミガメ排除装置の設置を法制化したためである。フロリダやトリニダードト・トバゴのオサガメが増加したのは、スリナムや仏領ギアナの産卵地が自然消滅したためである。

僕らは決して感覚的にものを言ってはいけない。事実や結果をそのまま伝える努力をしなくてはならない。それが僕らの役割なのだろう。しかし、事実はなかなか上手く伝わらない。なぜなら、上記の文章をもう一度見てもらえば分かるけど、どうしても事実を伝えるとなると、他者の批判をせざるを得ないのである。自分ではかなり柔らかく書いているつもりなのだけれども、そう取ってもらえない場合が多々ある。科学的な批判としては捉えられずに、感情的な反感をもたれるだけである。まだ、現場の人たちの間では何とか話し合える余地はあるけれども、マスコミや行政となると、僕から見るとたちが悪い。特にマスコミの勉強不足には呆れる。これまで、本気になってウミガメのことを記事にしてくれた新聞やテレビの記者は2人くらいしかいない。30年間に、である。つまり、表面的な写真や調査や研究のほんの一部しかみない。最近ではバラエティー番組さえからも、取材の申し込みや問い合わせがある。困ったものである。これらに対しても、真摯に対応していくのが、これからの世の中では必要なことかもしれない。そして、事実を伝えていくのが、僕たちがやるべきことなのだろう。(「僕たちがやるべきこと」了)