エルナの到達点

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世界のウミガメの現状を見てみるKと、大きく分けて二つの世界に分かれる。一つは、調査や実験によりウミガメの生態の一部を研究しそれを発表することだ。二つ目は、ウミガメが産卵する地域で、政府機関や保護団体が、産卵するウミガメやその環境を守る活動である。それに加えて、近年ではそれらの論文やデータもらって、机上でウミガメを論ずる人たちも増えてきている。しかし、不思議なことに、その年その年の調査結果や研究論文は多々あるが、産卵巣数に関することを除くと、10年20年間以上にわたって経年的にウミガメのことを論じたものはほとんどない。ほとんどのウミガメ界の人たちは、産卵巣数や産卵雌ガメ数からウミガメの資源量を推定し、その範疇でウミガメが減少しているとか、その減少の原因は漁業の混獲であるとか議論している。

なぜ、こういうことが起きるのか、どうして標識放流、ふ化率、産卵成功率などの経年変化に関するような論文がないのか。ウミガメが減少している原因は混獲だけなのか、誰もそれを実証する手段を持たないのである。その要因は、現在の調査や研究のシステムにある。単年や数か年のプロジェクトで予算を貰うと、その期間内に結果を出さなければならないからである。アメリカやヨーロッパのカメ学者は、さらに論文も書かなければならない。論文を発表することが、海外ではカメ学者の終着点となっているのである。自明のことであるが、これらの結果やその論文だけでは、ウミガメを守ることにはつながらない。しかし、議論だけは一人歩きする。

ふ化率を例にとってみよう。2005年にパプアの海岸でオサガメのふ化率が10%以下だった。これをみたアメリカの海洋漁業局のカメ学者やWWFは、すぐに移植を始めた。僕はそれに対して、激怒し反論した。ふ化率が低いのは、2003年10月に大地震があり、海岸の砂が消失したためである。だから、ただひたすら砂が元通りに堆積し、ふ化率が上昇するのを待てばよいことなのだ。僕らはふ化率の経年変化のデータを持っている。だから、反論できるのである。パプアの移植はその規模は縮小されたが、いまだに継続されている。そして、移植のふ化率は年々減少しており、WWFの移植に至っては、そのふ化率はほぼ0%である。写真のWWFのふ化場を見ればわかるが、移植しっぱなしでふ化跡がみられるのは、棒が倒れているわずか1巣だけだ。ふ化した稚ガメも犬に捕食されたり、そのままふ化場の中で干からびたりしていたという。彼らにとって、移植という保護的な意味合いのある活動を行うことが重要なのかもしれない。

これらのことも踏まえて、ウミガメを守るうえで、毎年同じことを繰り返して行う、様々なことに対してモニタリングを行うことが最も重要であることにエルナは気付いたのである。そして、人の影響を極力なくすことが、ウミガメを守ることになるということにも。エルナは、ウミガメ界の中で、最も高い到達点に、今、手が届こうとしている。

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