若い人たち(No.8)

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今、インドネシアウミガメ研究センターには、アキルさん(38)の配下として4人の若者たちがいます。1997年の設立当初からいるのは、ソフィアン・ハミドです。今は26才ですが、当時は19才の若さでいきなり研究員として雇用した若者です。アキルさんと同じブギス族です。インドネシアでは、親しくなると名前を呼ぶとき前半を省略して呼ぶ場合が多々あります。ソフィアン(Sofyan)は後ろのyanだけとってヤンです。1999年にアメリカのテキサスで国際ウミガメシンポジウムがあったときに一緒に行ったのですが、インドネシアのアメリカ大使館でビザを取るのが一苦労でした。「おまえは英語もできないのにアメリカに行くのか。英語のできない奴にアメリカは、ビザを出さない。」と脅されたのです。それでもすったもんだの末、ビザを取得し、何とかテキサスまで連れていきました。彼にはこんな事では挫けない強さがあります。この時一緒だったのは、アキルさん、田中、ヤン、それと東京水産大学ウミガメ研究会の塚田直美さんでした。ヤンはずっと直美さんを、目を点にして見つめていたのが印象的です。未だに「直美は元気か?」と聞いてきます。最近になってやっと人との交渉ができるようになり、漸く研究者らしくなってきています。年は一番下ですが、アキルさんの大ボスに次ぎ小ボスと呼ばれています。これもあのアメリカ行きが、皆の中で尊敬の念で見られているためのようです。あまり関係ないのだけど・・・。

スリブ諸島のプラムカ島でかつてべっ甲屋さんとインドネシア林業省の共同プロジェクトで2000年3月まで働いていたアブドゥル・ワヒドは今34才です。奥さんと2人の子供がいます。最もまじめな青年です。何事も全てアキルさんの指示通りに動きます。皮肉なことに僕の言うことは、ほとんど無視されます。そのため、僕からアキルさん、そしてワヒドという展開が生まれます。しかし、そのおかげで仕事はスムーズに進みます。パプアまで1週間もかけて船で電気柵の資材を運んだりして、イヤな仕事は率先してやってくれます。最近になって漸くコンピュータで報告書がかけるようになってきました。僕の言うことを直接は聞きませんが、現場では僕と一番気の会う良き仲間です。ウミガメの話しも彼とは一番するし、かたくなに下ネタの話を拒んでいたのも、最近になって彼の方から言い出したりします。ちなみにインドネシアではどんなに親しい友達でも下ネタ話はしないそうです。2週間ほど前にインドネシアに行ったのですが、この時初めて奥さんに会わせてもらいました。全くワヒドとは不釣り合いの、ものすごく美人かつカワイイ奥さんでした。僕に紹介したワヒドの照れた顔がすごく印象的でした。

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一番人なつっこいのが後から入ったジャマルディンです。彼には名前が一つしかありません。イスラム教の人たちは結構名前が一つしかない人たちがいます。略してジャマールまたはマルです。ヤンの一つ上の27才です。彼女と手を繋ぎパサール・バルという市場を歩くのを楽しみにしている青年です。どうも何人も彼女がいる様子ですが、先輩のヤンが結婚するまでは自分は結婚できないと言っています。以外とこういう秩序がインドネシアでは生きています。彼は、僕らが今タイマイの保護活動を行っているセガマ島から一人で船を出し、4日間漂流した経験があります。ジャカルタからセガマまで北に130kmほどあり、彼はスマトラ島とジャワ島の間のスマトラ海峡まで200km近く流されてしまいました。船に積んであった即席ラーメンを毎日生でかじり、じっと救助を待っていたそうです。彼が流されていた頃、僕らはシンガポールのすぐ南のビンタン島周辺の調査に出た後で、 こちらからもなかなか連絡が取れず、やきもきしたものです。その漂流で彼の顔つきは変わりました。その結果、今では何人もの彼女がいるのでしょう。ワヒドとヤンの元で良くやってくれます。

最後は、エマちゃんです。名前はヘルマだけで、皆エマちゃんと呼んでいます。33才です。ちなみにインドネシアで女性に年齢を聞くのは全く失礼なことではありません。元銀行員で、インドネシア研究センターがちゃんと運営できるのも彼女がいるからです。設立当初からいてくれて、事務的な作業は全てお任せ状態です。僕らの旅行許可を取るのも、警察署長と朝から夜遅くまでやり合ってしっかりと期限までに許可書を入手してくれます。時には夜10時11時になることもあります。今では、向こうもエマちゃんが行けば、何も文句を言わずすんなりと許可書を出してくれるようになっています。マレーシアのアセアンウミガメ会議にインドネシアウミガメ研究センター代表で出席し、その大役をちゃんとこなしました。英語はべらべらで、愛嬌のある顔で、すぐに友達を何人も作っていました。インドネシアでは、ディスコに行くような女性は不良と見られていますが、どうもエマちゃんはディスコが好きなようです。

僕がインドネシアにいる間は、彼らと行動を共にしています。最近アキルさんは自分の本業(国家公務員です)の方が忙しく、調査もほとんど一緒に行っていません。インドネシアウミガメ研究センターも、設立以来7年近く立ちました。昨年は、助成金を獲得し、彼らだけでウミガメ調査ができるほどになりました。調査場所は南シナ海の国境付近の島々です。だけど、僕から見るとまだまだかな・・・。もう少し、彼らとお付き合いをしないといけないようです。(「若い人たち」了)

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